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発作性夜間ヘモグロビン尿症の細胞拡大機序

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の発症には、PIGA遺伝子の突然変異によりGPI欠損となった1個の造血幹細胞クローンが正常細胞を凌駕して拡大することが必要

発作性夜間ヘモグロビン尿症の細胞拡大機序

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglbinuria:PNH)の発症には、PIGA遺伝子の突然変異によりGPI欠損となった1個の造血幹細胞クローンが正常細胞を凌駕して拡大することが必要です。しかしその機序はいまだに完全日は解明されていません。健常者にも少数(0〜0.003%)のGPI欠損細胞が見つかりますが拡大はしません。また、PIPA欠損の造血幹細胞を骨髄移植したPNHモデルマウスの血液でも、GPI欠損クローンは拡大しません。すなわち、PIGAの変異のみでは異常クローンの拡大は起こらず、PNH発症のためには他の因子が必要となります。

1)選択説
多くのPNH症例には骨髄不全が併発しており、自己免疫的な攻撃からGPI欠損細胞が免れることにより、相対的に異常細胞の割合が増えると考えられています。これは実際に再生不良性貧血の患者の中にPNH血球が顕在化している場合があり、そのような場合には免疫抑制療法が良く効くという指標になっていることからも支持されています。PNHマウスモデルにアロのCD4+T細胞を入れるとGPI欠損細胞が拡大して100%占めるようになることから、実際に免疫細胞の攻撃から免れていることがわかります。また、PNH患者ではCD1dに提示されたGPIアンカーを特異的に認識するT細胞クローンが拡大しているという報告や、PNH患者の正常骨髄細胞にはNK(natural killer)細胞の機能を増強するGPIアンカー型のリガンドが発現しており、NK細胞により選択的に正常細胞が攻撃を受けるという報告もありますが、両者とも実際の患者の病態にどの程度関与しているか不明です。骨髄不全を伴わないPNH症例があることからPNHは従来理解されていたような単クローン性の疾患というよりはむしろオリゴクローン性の疾患であることがわかっており、複数あるPNHクローンのうち1クローンだけが拡大するケースが多いことから、選択説のみではクローン性拡大を説明できません。

2)良性腫瘍説
造血刺激を受けたGPI欠損細胞が盛んに分裂を繰り返している間にさらなる遺伝子変異が起こり、腫瘍性増殖をきたしているという説があります。実際一部のPNH患者では腫瘍因子の亢進により発症した症例が報告されています。たとえば、GPI欠損細胞のみで染色体異常が起こり、転写促進因子HNGA2がその3'UTRの切断により、マイクロRNA(miRNA)であるlet7の制御を免れて高発現し、腫瘍性増殖を獲得した2例や、GPI欠損細胞でJAK2(janus kinase 2)変異やTET変異が起こって増殖性を獲得した症例があります。
今のところ、良性腫瘍説は一部の特殊な病型に限って認められています。原因となる遺伝子異常は見つかっていませんが、染色体異常のないPNH患者の60%以上の末梢血でもHMGA2の発現が上昇していたとという事実もあるので、今後はRNAseqや全ゲノムシークエンスなどを使ってエピジェティックな変異について解析する必要があります。

エピジェネティクス:遺伝子の塩基配列は同じなのに遺伝子の発現が変わる現象のこと

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