') ?> 脂質異常症(高脂血症)と血清TG値 - 健康診断・血液検査MAP2

脂質異常症(高脂血症)と血清TG値

世界保健機構(WHO)分類による脂質異常症(高脂血症)のタイプは表1の通りです

脂質異常症(高脂血症)と血清TG値

世界保健機構(WHO)分類による脂質異常症(高脂血症)のタイプは表1の通りです。I型およびV型はいずれもカイロミクロンの増加を特徴とし、血清TG値は1,000mg/dLを超えることが多く、I型はカイロミクロンのみ。V型はカイロミクロンに加えて超低比重リポ蛋白(VLDL)も増加します。この2つの病型は臨床症状や治療の上で共通する点が多いため、両者を併せて高カイロミクロン血症と呼ばれており、原発性高カイロミクロン血症は指定難病の1つです。また、高カイロミクロン血症は急性膵炎を合併しやすいという特徴もあります。

I型の主な原因は、常染色体劣性遺伝形式で起きるホモ型のLPL欠損症とアポリポ蛋白C-II欠損症です。LPL欠損症はLPL遺伝子の変異により、血中LPL蛋白とLPL活性が著明に低下することで、また、LPL活性化因子であるアポリポ蛋白C-IIは欠損することでLPL活性が著明に低下して高カイロミクロン血症となります。

V型では高カイロミクロン血症と高VLDL血症の両方を認め、I型より頻度が高く、この成因は複雑です。また、さまざまな疾患を合併していることが多く、特に糖尿病やアルコール多飲者で認められます。これらの機序に関しては詳細は不明ですが、カイロミクロンの異化過程に障害があることが予測されます。原発性V型高脂血症には家族性V型高脂血症が含まれます。V型高脂血症には高カイロミクロン血症が伴っており、LPLやその補酵素であるアポリポ蛋白C-IIの異常が基本にあることが想定されますが、家族性V型高脂血症ではLPL欠損、アポリポ蛋白C-II欠損さらにアポリポ蛋白Eno異常を認めないことが診断条件になっています。最近、LPLのヘテロ遺伝子異常による高TG血症は報告され、冠動脈疾患リスクが高いことが確認されています。

I型もV型も基本的には同様の遺伝子背景(LPL経路の遺伝子異常)から生じ、I型とV型の間や、原因遺伝子の間で、臨床的特徴はそれほど厳密に区別できないことが多いため、最近ではTG>1,000mg/dLをひとまとめにして重度高TG血症として定義する見方もあります。
一方、I型とV型の大きな違いの1つであるVLDLの蓄積の有無は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクに違いをもたらす可能性があり、また高TG血症の原因遺伝子においてもASCVDリスクとの関連が示されている遺伝子(apoA-Vなど)と示されていない遺伝子(apoC-II、GPIHBPI,LMF1など)があるなど、混沌としています。またVLDLの代謝に関与が多いとされるアポリポ蛋白A-VはIV型高脂血症の成因の1つとも考えられています。
さらにはIII型高脂血症ではIDLが増加し、血清TGがコレステロールとともに高く、その成因はアポリポ蛋白Eの異常とされています。
I型、V型を含め、新たな分類や指標によって、背景となる遺伝子異常や合併症(動脈硬化、膵炎)のリスクが予測できるのであれば臨床上有用となりますが今後の課題とも言えます。


表1 WHO分類(Fredrickson分類)による脂質異常症(高脂血症)のタイプ
----------------------------------------------------------------------
タイプ  血漿の状態   主に増加する脂質  増加するリポ蛋白
----------------------------------------------------------------------
I型   上層クリーム様  トリグリセライド  カイロミクロン
     下層透明
----------------------------------------------------------------------
IIa型  透明       コレステロール    LDL  
----------------------------------------------------------------------
IIb型  白濁傾向     コレステロール    LDLとVLDL
             トリグリセライド 
----------------------------------------------------------------------
III   白濁傾向     コレステロール    IDLまたはVLDLレムナント
             トリグリセライド
----------------------------------------------------------------------
IV    白濁       トリグリセライド   VLDL
----------------------------------------------------------------------
V    上層クリーム様  トリグリセライド  カイロミクロンとVLDL
    下層白濁
----------------------------------------------------------------------
※LPL:リポ蛋白リパーゼ

▽脂質異常症(高脂血症)と血清TG値 のキーワード

▽次の記事、前の記事

中性脂肪(TG)の測定法 | 高TG血症を伴う主な疾患 原発性高カイロミクロン血症

健康診断・血液検査MAP2:新着記事

鉄のホメオスタシス
生体は鉄過剰や鉄欠乏に陥らないように複数のステップで鉄の取り込みを制御しています。
続発性鉄過剰症と鉄の毒性
蓄積した鉄により生じた活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)が肝細胞障害や変異原生塩基の生成を惹起することが知られています。
単球由来マイクロパーティクル
膜小胞体は細胞の内部顆粒や膜性微粒子、および機械的破壊によって生成された膜のフラグメントを含み、マイクロパーティクル(microparticle:MP)と呼ばれています
My Nightingale マイ ナイチンゲール総合的健康状態把握
バイオマーカー測定値より算出される総合健康指標および各種健康指標
新型コロナ経口薬パキロビッドパック(Pfzer社)を特例承認
厚生労働省はファイザーが申請した「パキロビッドパック」(ニルマトレルビル・リトナビル)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として特例承認しました
尿中コルチゾール
コルチゾールは、下垂体から分泌されるACTHの刺激を受けて、副腎皮質束状層より分泌される分子量362.5の糖質コルチコイドでACTHとの間にフィードバック関係があります
新型コロナウイルスCOVID-19のサイトカインストーム
「サイトカインストーム」は、何らかの原因によりIL-1β、IL-6、TNF-αなどの血中サイトカインの大量産生状態と、続発する全身の炎症状態を伴う過剰な免疫反応を表す言葉です
sFlt-1/PlGF比 妊婦高血圧腎症発症予測
PEの病態形成には、血管新生因子である胎盤増殖因子(PlGF)およびその阻害因子の可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)が関与していることが明らかになっています
ctDNAの量と検査方法
血漿DNAの量は10ng/mL以下と微量であり、このうち腫瘍由来のctDNAは通常0.1〜1%の低頻度で含まれています
cfDNAとctDNA
cell-freeDNA(cf-DNA)は体内の細胞が死滅する際に、ゲノムDNAが細胞外に放出され血液中に短く断片化した遊離DNAです

Valid XHTML 1.0 Transitional Valid CSS! Lint